13 Jan 2013

「わたしの名は紅」

少し前に読んだ本ですが、トルコ人として初めてノーベル文学賞を受賞した作家、オルハン・パムクによる「わたしの名は紅」。(新約版は「赤」ですが「紅」の方がしっくりくる感じ)
2000年に発表された本作は世界24か国語に翻訳され、数々の賞も受賞しています。パムク氏は現在米コロンビア大学比較文学論教授。

舞台は1591年冬、ムラト3世治世下のオスマン帝国。
皇帝の命により秘密裏に写本の制作を引き受けた「おじ上」は、細密画工房の名人絵師4名に作業を依頼。その中の一人、「優美」と呼ばれる細密画師が殺されたことにより、残る3名に殺害の疑いがかかる。

物語は各章「わたしは○○」という形で一人称で語られ、犯人捜しをめぐるミステリー小説…と思いきや、物語には「おじ上」に呼び戻され12年振りにイスタンブールに戻ったカラという好青年と「おじ上」の娘シュキュレとの複雑な恋愛模様が交錯して描かれる。

物語の語り手はカラやシュキュレ、細密画師、だけでなく、犯人、死者、馬、金貨、そして赤と、ころころ変わる。その過程で細かくそして鮮やかに描かれる各人物の心理描写、そしてオスマン時代の美意識、文化・歴史・宗教的世界観。本当に自分がオスマン帝国時代にタイムスリップしたような不思議な感覚に囚われる小説です。

彼は自身のワークスタイルについて下の動画で述べています。(ところで、(失礼ながら)トルコ人でここまで英語が上手い人はあまり多くないです。ビックリしました。日本の文化人でスラスラ自身の仕事について英語で発信できる人がどのくらいいるのだろう?)




"I am just listening to an inner music, the mystery of which I don't completely know. And I don't want to know."

そんな簡単に、こんな素敵な小説を生み出せるなんて…天賦の才としか言えません。。
(ちなみにまだ読んでないですが、その他にもたーくさん代表作があります)