1 Jul 2012

「異邦人」


アルジェリア出身の小説家、アルベール・カミュの代表作「異邦人」。

彼の作品に一貫して登場するのは不条理という概念。
彼は不条理を理想との間に生じる対立、葛藤、分裂であり、理性をもつ人間が直面する問題だと定義。
 不条理に対し、人は3つの選択肢を与えられる。それは即ち、自殺、宗教などへの盲信、不条理の認識。

カミュはこの不条理を受け入れ、立ち向かうことを説く。
「運命を不条理と知る時には、意識によって絶えずこの不条理を目前に明らかにしつつ、この不条理を支えてゆくために全力を尽くさなければ、その人はこの不条理の運命を生きないことになるだろう。・・・生きること、それは不条理を生かすことだ。不条理を生かすこと、それは何よりもまず不条理を見つめることだ。・・・不条理はそこから眼をそむける時にのみ死ぬのである。かくして首尾一貫した唯一の哲学的立場の一つは反抗である。・・・ この反抗は人生にその褒賞を与える。全生涯を通じて行われる反抗は、その人の人生に偉大さを与える」
しかし、不条理に対峙した瞬間、人は孤独な“異邦人”となるのだ。

本作の主人公であるムルソーは、母の死に何の感情も持たず、葬儀の翌日に海水浴へ行き、女と関係を持ち、大して面識のないアラビア人を「太陽のせい」として殺し、獄中でも自分は幸福だと感じ、群衆が憎悪の叫びをあげ自分の処刑台に集まることを願う。
この、社会の一般的通念や人々の理想からかけ離れたムルソーの対応は彼を“異邦人”とならしめ、最終的に斬首刑との結末をもたらすことになる。

しかし、慣れ親しんだ環境への違和感や虚無感、無感動、感情を露呈することの無意味さは、誰しも人間社会で感じることがあるのではないでしょうか?
ただ、皆それを認めることで“異邦人”になることを恐れているだけなのだと感じます。

尚、本作では太陽と海の描写が多用されています。(主人公の名前ムルソー(Mersault)は、海(メールmer)と太陽(ソレイユsoleil)、この2つのフランス語を続けて発音すると近くなる)
アフリカ大陸に足を踏み入れたことがあれば、灼熱の太陽が人を狂わす理由も理解できなくはないでしょう。

ちなみに、本作はイタリアのルキノ・ヴィスコンティ・ディ・モドローネ監督により1967年に映画化されています。