傷ついた二つの魂の邂逅。
おそらく人間誰しも心の奥底にはどろどろとした不気味なものを抱えていると思う。この作品はその部分について語ることで、観る者の人間としての核心に訴えかけてくる。そういう意味で、キム・ギドク監督の「悪い男」なんかと非常によく似ている。
概して韓国映画は非常に人間的で心を揺さぶるような類の作品が多い気がする。それはやはり韓国の歴史や文化、社会的背景が大きく影響しているのだろう。今回の作品の背景についても、ヤン監督はこう述べています。
「韓国の歴史的な背景を見たとき、“国”が私たちの父親や母親の世代の心に傷を負わせてきたという認識があったんです。父親は国の発展のため、家族のことは二の次でお金を稼ぐ機械のように扱われてきた。じゃあ、母親はどうだったかというと、小学校までしか通っていない人も多く、子どもを教育する余力がない。それでも母親には子どもたちと一緒に暮らしている一体感がありますが、父親には家族との意志の疎通がなく、かといって外に行っても確固たる地位があるわけじゃない。でも、国の復興という大義名分のために働く必要がある、そういったゆがんだ家族像が、実は韓国では広く見られるんです。となると、当然いろいろなトラブルが起きますよね? 私もそういったひずみの真っ只中を生きてきて、もやもやしていたんです。」
社会や家庭などあらゆるコミュニティーにて生まれうる“ひずみ”。人間としてこの暗い部分に目を向けるのは時として非常にツラい。だからこそ、このような作品は観る者の心を揺さぶり目をそむけてはいけないと迫ってくる。そして、そういう作品に出会えることは非常に幸せだと思う。