18 Dec 2010

「君たちはどう生きるか」

書は、日本にて軍国主義が高まりつつある1937年、自由な精神・思想、豊かな文化などの重要性を諭した書として吉野源三郎氏によって刊行されました。
15歳の「コペル君」を主人公とした物語形式の平易な文章は、もともとは少年少女向けに書かれたものですが、大人が読んでも非常に考えさせられる部分は多いです。

タイトルからわかるように、本書はいかに生きるべきかという倫理・道徳的な内容も含まれていますが、それ以上に社会科学的認識―つまり自分が社会での問題・事象をどう認識するか、の重要性が描かれています。
特に共感を覚えたのが「貧しき友」における「恵まれた立場にいる人が、どんなことをしなければならないか、どういう心掛けで生きてゆくのが本当か」という下り。
これはまさに自分が常日頃問題意識として抱えている、先進国に生きる者としての義務に通ずるものがあると思います。

すなわち、自分が今豊かで幸せな生活を送れるのは自分の努力によってではなく(少しは努力の結果もあるかもしれないけれど)、たまたま先進国の一般家庭に生まれたからである、という考え。従い、たまたま別の環境に生まれ何らかの苦難に苛まれている人々に対し、先進国に生きる者として何らかのアクションを起こすことは当然の義務だと考えます。

また、本書で有名なのはコペル君が粉ミルクを出発点として生産関係を発見する「人間分子の関係、網目の法則」の部分。日常的な事象をもとに徐々に視点を広げていき、世界的な人間の繋がりや生産―消費関係にまで話を展開する下りは非常に鮮やかかつ明快です。
さらに、消費ばかりしていて何も生産していない自分が何を生み出しているのだろう?という問いかけは、ある意味でとても核心をついていると思います。自分にとってもこれは常に問いかけ続けなければならないと感じました。